2019年5月20日月曜日

2019.05.20 幻冬舎の見城社長がTwitterを閉めた件

● 自社で出版した小説の実売部数をTwitterで公開したことが,多くの作家たちから総スカンを浴びたのが理由らしい。これはやってはいけないことなのか。作品がどれだけ売れたかは守秘に値する「個人情報」なのか。売れてるときは自ら触れ回っているようなのだが。
 それとも,出版社のトップが言ってはいけないという道義的責任を問うものなのか。この世界にはそういう道義があるというわけか。

● ヤフオクでは出品されている商品を“入札の多い順”に並べる機能がある。それはやはり必要なものだ。ないと困る。入札者が多いのは,それだけ注目されているということだから,自分が入札する際の参考情報としてはかなり重要なものだ。
 同様に,各出版社には自社で出している書籍・雑誌の実売部数を公表することを義務づけたらどうか。読者が書店で買うときの参考情報になるのではないか。それでは,売れている本にますます購買者が流れてしまうなどというのは,読者を愚民視するものだ。命の次に大事なお金を出して買うのはアンタではない。読者だ。
 どうせ業界内では誰でも知っていることなのだろうから,ここはひとつ,はっきりと公開することをルール化して,読者の購買の参考に供することにしてはどうか。

● 売れる本がいい本なのか。出版社が営利企業である以上,答えはYESだ。どこかで読者=大衆をリスペクトしないと,創作とか出版といった業は成り立たないのではないか。
 っていうか,この問いは無意味だ。高尚な本は売れないといったって,それが高尚かどうかなど,誰にも証明できない。所詮は個人の好みでしかない。内容の純粋判断は神の領域だ。当然,売れないから高尚だという逆は成立しない。

● さらにいえば,現在はネットがあるのだ。自分の意見や見解を公開する手段は出版だけではない。自分が高尚だと考えるのであれば,ネットを使って世に問えばよいではないか。ブログでもFacebookでもいいだろう。
 ただし,ネットで喰っていくのは現状ではほぼ無理だろうから,出版にこだわる人がいるのはやむを得ない。

● “スカン”を浴びせている作家たちの言い分で最も説得力があるのは,高橋源一郎さんの主張だと思った。あんたの本は売れないからウチでは扱わないと直接本人に言えばいい。それをTwitterで公開してしまうとは,幻冬舎で書いてくれる作家に対する最低限のリスペクトを欠いている。
 なるほどと思った。

● 思ったのだが,これはどうもこの業界特有の倫理のようにも思われた。書く人が出版社より偉いという通奏低音のようなものも感じた。出版社側が頭を下げて書いてもらいたい作家は当然いると思うのだが,それは一般化が可能なものだろうか。
 それゆえ,“スカン”の中にはモヤモヤとした,あるいは嫌悪の感情を吐露しているだけのものもあったと思う。あと,漏れ聞くところによると,幻冬舎は作家に対してけっこう渋いらしい。それもあるのかもしれないと思ってもみた。

● 見城さんを擁護する意見もあるわけで,その中で説得力があったのは,明治期の作品で現在まで残っているもの,たとえば漱石の『猫』,は当時のベストセラーだったものが多いという意見だ。
 言われてみて,なるほどと思った。当時は本を買って読める人というのは,今とは比べものにならないほどに少なかったろう。文字どおりの知識人が読者だったはずだが,それにしても鑑識眼が確かだったのだろうか。

● 今はベストセラーを貶める意見もある。バカも買うからベストセラーになる。ゆえに,ベストセラーが世の中を変えることはない。しょせんはコップの中の出来事にすぎない。
 この1冊で人生が変わった的な言い方がされることがあるけれども,そんなことが本当にあるのかとぼくなどは思っている。どうもあるようだから困るのだが,おそらくその多くは出版界が言わせているのではないかと疑っている。

● 今回の騒動には幻冬舎が出した百田尚樹『日本国紀』に対する毀誉褒貶というか,作家や言論人の百家争鳴が背景にあるようで,実売部数を公表された作家は,『日本国紀』非難の急先鋒だった。
 たしかに,彼のツイートは意見の多様性を前提にするというものではなく,『日本国紀』の存在を抹殺せずんばやまずという気概(?)があったと,ぼくも感じた。

● が,総じていうと,言論人がデカい顔をしすぎていると思っている。大衆がそれを望んでいるからそうなっているのだが。
 ベトナム戦争を持ちだすまでもなく,言論人が正しかったことってあまりなかったような気がする。これからもないだろう。評論する人は間違うのが仕事だ。間違うことを仕事にして口に糊している人を言論人と呼ぶのだ。
 そもそも本を読むなどという行為は「この世界の片隅で」ひっそりと行うものなのかもしれない。裏世界に属するものなのかも。

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