● 一人の人間が一生の間に味わう苦しみの総量は,誰でも似たようなもので大差はない,と聞いたことがある。そのことを思いだす。
● 自分を顧みても,何で自分だけがと思うようなことはあった。同じ経験をした人はそんなにはいないはずだ。
が,苦しさ,悲しさ,切なさ,やるせなさには無数の形があって,ぼくなどが思いも及ばない形のそれらを味わっている人たちで,この世は満ちているのだろう。
● 人生にはたしかにマサカという坂があった。その坂の前では,個人の努力など塵芥に等しい。
呆然自失する以外に対応のしようはない。時間が解決してくれるのを待てるかどうかだけの問題になるだろう。
● それでもみんな,笑っている。
いろんな人がいる。しかし,その誰もが自分と同量の悲しみ,苦しみを背負って,それでもなお笑って生きているのだと思えば,出逢う人の一人ひとりが愛おしく思えてくるではないか。
● 近しい人を亡くして泣いている人のそばで,自分の子供自慢や孫自慢をするような人間もいるのが現実だ。自分の中の邪が暴れだすこともある。
なかなかそうしたきれいな思いにはなれないものだけれども,時々はそのことを思いだしたい。
● この世を生きている人たちに愛おしさを覚える時間を,ほんの瞬間でも持つように努めて,月に一度でもその瞬間を持つことができたとすれば,そうして,そのようにして人生を終えることができたのであれば,その人がたとえ極貧のうちに沈んだままであろうとも,その人を「成功者」と呼んでいいのではあるまいか。
● その人は何ものかと対峙して,静かに,その何ものかに勝ったのであるから。
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