2018年5月9日水曜日

2018.05.09 研究者も楽ではない

● 今日の下野新聞。高被引用論文。名誉なことなんでしょうねぇ。FBで“いいね”がたくさん付くのとはわけが違う。

● そういう論文を書く人が,40歳で助教というのもなぁ。上が詰まっててどうしようもないのか。
 もっとも,教授や准教授になっても雑用が増えるだけだから,助教のままでいるのが正解なのか。事情が許せばずっと院生でいたい,という人もいるかも。

● 研究に没頭できるのは,院生や助手,つまり教授会だの委員会だの入試業務だの文科省に提出する書類の作成だの,研究以外の雑用に煩わされないですむその時期だけだろうから。
 准教授になって教授会のメンバーになれば,その辺のサラリーマンと変わらない業務内容になる。学生の就職の面倒も見なければならない。
 だから,研究だけをしていたい人にとっては,40歳になっても助教でいられるのは福音なのかもしれない。

● この記事の研究者は上位1%に入るだけの高被引用論文をすでにいくつも書いているんだから,才能や資質は証明されている。ポストで処遇される以上の名誉をすでに手にしている。「仕事の報酬は仕事」という境地に達しているんじゃないか。
 将棋でいえば藤井六段のようなもので,順位こそC1で,格上の人がたくさんいるけれども,実力はトップクラス。しかも,そのことを多くの人が認めている。

● 仕事の報酬としてお金や昇進を求めてしまう人は,そもそも研究者になってはいけないのだ。といっても,稼がなければ喰っていけない。この記事の助教のような人は,その世界でも例外的な存在なのだ(たぶん)。
 大学は構造不況業種だ。少子化は大きな津波のようだ。すべてを飲み込む。受験生をそっくり入学させても大学全体の定員を満たすところまで行かないのではないか。早稲田・慶応クラスでも現在の学生定員を維持するのは不可能だろう。
 学生が減れば大学の収入も減る。潰れる大学がすでに出ているし,これからも出る。大学の教職員は,これまでも,そしてこれからはいっそう顕著に,リストラの対象だ。

● となると,研究を業として生きていきたいという人は,企業の研究所やシンクタンクを狙うのが現実的ということになりそうだ。が,企業は博士号取得者(あるいは大学院の博士課程修了者)を採用したがらないという現実がある。
 その理由を推測するに,彼らは企業では使いものにならないという経験則があるからだろう。30歳近くまで社会から隔離された状況に置かれれば社会への適応力を失っているだろうということのほかに,もう少し根源的な理由がありそうな気がする。

● 研究への才能や資質の有無は,その道の先達にしかわからないだろう。したがって,遅くとも修士修了の時点で,おまえは研究には向かないから方向を変えた方がいいと言える人が必要なのだ。
 将棋界の奨励会は26歳で四段に上がれなければ強制退会になる。厳しいようだが,これは温情だ。26歳ならギリギリ転身が可能だ。これと同じような仕組みが研究者の卵の世界にもあるといい。

● が,そういう憎まれ役を買ってでる人はいないだろう。院生は授業料を払ってくれる金づるだということのほかに,研究には向いていないけれども,他のものにはもっと向いていないという院生が少なからずいそうだからだ。
 そういうことは企業もわかっている。だから採用したがらない。

● 才能や資質を保持している人は,多目に見積もって院生の2割と見る。その2割については,上記はあてはまらない。
 また,理系と文系では様相がかなり異なるだろう。博士号取得者は企業が採用したがらないというのは理系の場合であって,文系ではさらにハンデになる。無駄に年をとったと思われるだけだ。
 まぁ,就職戦線は売り手市場だ。あまり企業のご機嫌をとってばかりでも仕方がないから,文系の人でも大学院に行きたければ行けばいい。自分の人生だ。

● ぼくが学生だった頃は,才能や資質に欠けるところがあっても,どうにかこうにか大学の教職に潜り込める人が少なからずいたような。
 大学の先生は楽な商売の典型でもあった。週に数時間の講義をしていれば,あとは何をしてても,誰にも何も言われない。学生は自分で勝手に就職先を決めていく。教授というだけで世間も一定の敬意を払ってくれた。高等遊民でいることができた。

● しかし,そういう長閑な時代は終わっている。学歴と知識(を保有していること)の価値が地に墜ちたからだ。インターネットがそうした。どの分野でも世界の先端を開く論文はネットにある。英語さえ読めれば誰でもアクセスできる。大学人に限られない。
 当局からの締めつけや管理は強くなる一方だろう。教授会自治などという言葉はとっくに死語だ。大学は世間に対応できない人の収容先でもあった。これからどうなっていくのだろう。

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