● 先月の25日,サントリーホールに行く機会があった。
音楽専用に設計された東京初のホール。この国の演奏活動の中枢を担ってきて,現在も担っている。ぼくが知っているのはその程度のことだ。
● できて間もない頃,友人がサントリーホールで行われたコンサートを聴きに行って,その様子を語ってくれたことがあった。興奮冷めやらぬという感じで語っていたことを,今も憶えている。
だいぶ前のことのような気がしてたんだけど,サントリーホールの開館は1986年10月らしい。まだ30年も経っていないのか。
● そういうところへぼくも行くことになるとは,その頃はチラッとも考えなかった。わからないものですな。
で,今でも,サントリーホールはちょっと別格でしょっていう気分が,ぼくにはあった。
● 実際に行って聴いてみると,音響だけでいえば,このホールよりいいところがあるんじゃないかと思った。聴衆にとっての使い勝手にしても,このホールがナンバーワンだとは思わなかった。
けれども,ここはやっぱり特別なのだった。その理由を以下に述べる。
● ホールに着くまえのアプローチが違うのだ。アークヒルズの一角にあって,ANAインターコンチネンタルホテルが隣接する。スウェーデンやアメリカ,スペインの大使館も近くにあり,ホテルオークラも徒歩圏内。
要するに,場所がセレブっぽいわけですよね。ハイソな雰囲気ありまくり。生活感が希薄な人工空間。庶民を連想させるものがない。
● ハレの場としては申し分ない。ハレの度合いがかなり高い。
したがって,ホールに着く頃には,自分が俳優になったような気分になる。つまり,自分もこの場で演じる一人なのだと思えてくる。空間がそう思わせる。
● そういうのって,何度も来れば消えるはずのものだ。滅多にないからこそのハレだから。
この空間が日常になっている人も,けっこうな数,いるんだと思う。プロの奏者にとっては,数あるホールの中の一つに過ぎないだろう。
● ところが,滅多に来ない人の方が,数からいえば圧倒的に多数でしょ。そうした多数派にとっては,ここはもう観光地といってもいい。写真を撮るところ。
実際,そうしている人の比率が,他のホールに比べるとずいぶん高い(っていうか,他のホールではまず見かけない)。お上りさんになるんだよね。
● で,彼ら(ぼくもその中のひとり)が生活感を持ちこんでくれる。隣のお店のテラス席に陣取って発泡酒を飲んでいる御仁もいたし。
でも,観光客が持ちこむ生活感っていうのは,彼らがそこにいる間だけのことだ。彼らが去れば元に戻る。
そして発泡酒の御仁も,たぶん,彼なりのやり方で俳優をやっている部分があるはずだ。
● というわけで,サントリーホールはそれが建っている場が,他とは違うんですね。
ミューザ川崎や東京芸術劇場やすみだトリフォニーも,ホール単体として見ればとてもいいホールなんだけど,終演後に外に出ると,そこは川崎であり池袋であり錦糸町なわけでね。
目に入ってくるのは,ファストフードのチェーン店とファミレスとコンビニと立ち食いそば屋とビッグカメラなわけだ。あるいは,カプセルホテルの看板。
● 言葉を変えれば,たったそれだけの違い。ほんとにね,たったそれだけ。
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