● 浦島太郎の話にはよくわからないところがある。どう解釈すればいいのか。
特に,乙姫が浦島太郎に玉手箱を持たせたのはなぜなのか。持たせる必要なんかなかったろう。
しかも,わざわざ「開けてはいけません」と言って,必ず開けるように仕向けている。開けてはいけないと言われれば,開けたくなるもんね。
● これに関して吉行淳之介さんが,次のような解釈を示している。
乙姫は竜神の囲われ者。が,竜神の寵愛は別の妾に移ってしまい,乙姫は竜宮城でひとり孤閨をかこっていた。ある日,浦島太郎を知り,あぁ,この少年に慰めてもらいたいわ,と思った(浦島太郎は偉丈夫なイケメンだったのだろう)。
そこで浦島太郎を竜宮城に拉致することにした。亀に言い含めた。浦島太郎が通りかかる時刻に砂浜でいじめられてきなさい。
心優しい浦島太郎がその亀を助けるだろうことはわかっている。上手くいった。
次は拉致だ。お礼に竜宮城に招待したいと亀に言わせ,それにもまんまと成功した。
● 当然,浦島太郎が竜宮城で受けた接待は,鯛や鮃の舞い踊りばかりじゃなかったはずだ。が,そうこうするうちに,さすがに乙姫も気がすんだ。ありていにいえば,浦島太郎に飽きてきた。
帰さなければならない。あまり長引くと自分の浮気が竜神にバレてしまう可能性もある。竜神のことだ。バレてはおおごとになる。
いや,帰したあとも,浦島太郎がペラペラと自分の竜宮体験を喋ってしまうかもしれない。喋られてはまずい。唯一の生き証人を亡き者にしなければ。
● そこで凶器の玉手箱を持たせた。わざわざ開けてはいけないと念を押し,必ず開けるように仕向けることも忘れなかった。
玉手箱を開けてしまった浦島太郎は,3日ももたずに亡くなったろう。こうして,乙姫の完全犯罪は成就した。
● さて,では浦島太郎は哀れな被害者だったのだろうか。断じて,否,でしょ。酔生夢死を地で行ったようなものだもん。
少年から老衰するまでの期間を,あり得ないほどに短く感じられるような快楽のうちに過ごせたんだから,こんな幸せな人生はない。
● ぼくははるか昔に少年ではなくなった人間だけれども,かつ偉丈夫でもイケメンでもないけれども,誰かぼくを竜宮城に拉致してくれないだろうか。
帰りにはぜひ玉手箱を持たせてほしい。開けてはいけないとは言ってくれなくていい。言われなくても開けるから。
● ここで思うのは,竜宮城で浦島太郎が過ごした年月は,現実なのか夢なのかってことだ。夢と現実の境目は限りなく曖昧だ。
夢を見る技術,魅惑的な言葉だ。
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