結果的に房総半島を一周することになる。まずは,京葉線の蘇我行きに乗車することから。
● 行程を紙に書いて手帳に挟んでおいた。手帳ごと忘れてきた。
こういうことが,最近,多くなった気がするな。齢のせいにはしたくないんだけどね。
行程表を忘れてきたが,行程自体は憶えている。というか,単純だから忘れようもない。
その行程に従って,来た電車に乗るだけのこと。“青春18” なんだから,普通か快速にしか乗らないわけだしね。
● いったん乗ってしまえば,後はやることがない。よほどのことがない限り,時刻どおりに列車がぼくを運んでくれる。
こんなものの何が楽しいのか。宮脇俊三さんが仰られたとおり,鉄道趣味は “児戯に類する” もので,あまり大っぴらに吹聴するようなものじゃない。でも,退屈はしないんだな。
列車は順調に外房線を南下中。
駅前の様子は,先月行ったひたちなか海浜鉄道の那珂湊を連想させる。こちらの方が栄えているんだろうけど,街の構造が似てる印象。碁盤の目とは対極の街と言うかね。
ここまでは11両or8両編成だったのだが,安房鴨川経由木更津行きは2両。
● その内房線直通の木更津行きに乗車。2両とあってはさすがに立ち客も出る。
大原でドッと空くのかと思ったが,こんなことはなかった。
長者町という駅がある。どうしたって,横浜の “関外” にある長者町をイメージすることになる。長者はいそうにない。
● 太平洋に沿って走っているわけだが,そこは日本の地形だ。御宿に着く前にトンネルを潜る。そうして,太平洋はなかなか見えない。
以後も短いトンネルをいくつか潜って勝浦に着く。海も見えた。やっと外房線という名のイメージの路線になるのだが,以後もトンネルは次々に現れる。すぐ先が海なのに,山岳列車の趣がある。
トンネルを抜けると現れる集落の様は,先月,西武秩父線の車中から見た秩父を彷彿させる。秩父でもトンネルを抜けると山の斜面にへばりつくように小集落があった。
● アラフィフの女性がひとり,座席に空きがあるのに,ドア側に立ってスマホを向けている。時々現れる太平洋をカメラに収めているようだ。
贅肉もそれなりに乗った年齢相応の体型だが,ぼくから見れば充分にお若い。独身を満喫しているようで,良き光景だと嬉しくなった。
が,安房小湊から友人が乗った来たようで,以後は中国語で話し始めた。たぶん,台湾の人だろうか。この列車を落ち合う場所にしていたようだ。
願わくば,女性の一人旅であってほしかったんだが。こちらの勝手な希望だけどね。
外房線の終着駅を単なる通過駅にして,2両の普通列車は木更津を目指すのだった。
● ここからは内房線になる。その内房線の館山までが乗っていない区間。
安房小湊までは二度,安房鴨川までは一度乗っている。いずれも特急。乗ったこと自体は憶えているが,それにまつわる記憶は一切ない。
● 普通列車なら憶えているのかと言えば,そんなことはないのだけれども,乗る分には普通列車の方が面白い。入ってくる情報量が特急とは段違いに多いからだ。
新幹線に東京駅から乗ったとする。静岡に入っても愛知に入っても大阪に入っても,新幹線の車中は東京のままだ。普通列車はそういうことがない。地元の空気が入ってくる。
新幹線には閉じ込められたような閉塞感があるが,普通列車には開放感がある。
● 安房鴨川で全員が降りるのかというと,そんなこともなし。乗ってきた人もそんなにいない。
安房鴨川を過ぎてもトンネルは現れる。が,山岳列車の趣はだいぶ少なくなる。電車から海を眺めるには,この区間がいい。特に,和田浦〜南三原(ミナミミハラではなくミナミハラ)間。
その南三原から館山圏に入るんだろうか。ひと駅ごとに何人かずつ乗ってくる。
館山ではドッと人が乗ってきた。久々に立ち客が現れた。東京近郊列車の趣も生まれる。その後,乗客は増える一方だった。
ぼくはといえば,上総一ノ宮から運んでくれたこの電車で終点の木更津まで行きたいから,久里浜行きには乗らず。
海を眺めたいなら,外房線より内房線がいいが,乗ってて楽しいのは外房線かなぁ。田舎びていると言っては失礼だが,東京近郊列車に乗ってても面白くないんでね。
ちなみに,上総一ノ宮〜安房鴨川〜木更津は普通列車の運転区間のユニットになっているようで,1日に何本も走っているようだ。
率直に言って煤けた印象を受ける。寂れたというか。アクアラインの影響はあまりないんだろうか。アカデミアパークは最悪のタイミングだったしね。むしろ,君津の方が栄えていくんじゃないかと思わせる。
● さて,久留里線。久留里〜上総亀山間は廃止が決まってる。乗ってるのは鉄道マニアだけで,地元民は利用しないらしいから廃止は当然と思うが,さてどんなところなのか。
15:53発。久留里から先は運転本数が少なくなる。15:53発は上総亀山まで行く。これに乗れないと少々辛いことになる。
2両のワンマン運転で運行されているようだ。さて,どんなところなのか。
● 少なくともこの時間帯の久留里線は,木更津を発車する時点で乗客の過半は鉄道マニアだった。
山に分け入っていくのかと思っていたのだが,そうではない。内陸に向かうので,登り勾配ではあるのだが,山に分け入るという感じではなかった。丘陵地帯ですらない。田んぼの中を突っ切って行く。車窓は単調だ。
● 下郡を過ぎると勾配が少しキツくなるが,それでも農村地帯を走る。久留里まで来ると,だいぶ登ってきた感がある。いつの間にこんなに登ったのだ,と。
しかし,ずっと田んぼの中だったのだ。久留里で急に山感が出る。そういう地形なのだな。
● で,久留里から先は完全に山間部を走る。車窓が面白くなる。乗ってて面白いのは,廃止が決まっている久留里〜上総亀山間だ。
しかし,トンネルはない。このままトンネルなしなのかと思っていたら,上総松丘を過ぎて2つのトンネルを潜った。
● 要するに,路線の保持にコストが嵩むのは久留里から先。乗客はいない。鉄道マニアを運んでいても仕方がない。
JRとしては,できれば久留里線は全廃したいだろう。
「休日おでかけパス」のフリーエリアに久留里線が全部入っている。が,当然,「休日おでかけパス」を上総亀山駅で買うことはできない。久留里まで行かないと。上総亀山から乗る人はいないんだろうねぇ。
結婚指輪をしていた。実直そうな人だ。今日は会社を休んで,この暑い中を好きな写真にいそしんでいるのだろう。彼にどうぞ良きことがありますように。
その彼,久留里で降りていった。お城の写真も撮るのかね。
久留里駅で11分の猶予がある。で,改札を出てみたのだが,ほんとにね,鉄道マニアしか乗っていませんわ。明らかに地元の人と思われたのは1人だけ。
久留里からの列車は3両編成。車掌も乗務していた。すべてワンマン運転というわけではないんだね。
● 木更津からは快速の東京行きに接続。グリーン車を連結する堂々の15両。
蘇我で京葉線に乗り換えて,19:57に潮見着。久留里線の久留里〜上総亀山間に乗れたので,思い残すことはありませんね。